安い舌

 さあさあ、旦那様。

 此処には何でも揃います。

 富、地位、名誉。

 欲しいものは何でしょう?

 

 舌…でございますか。

 それではどれになさいます?

 ピンからキリまでさあ、いかが?

 

 旦那様のような方が何故、こんな安い舌を?

 勿論、味は分かります。

 しかし、もっと素晴らしい舌が幾らでも…。

 

 これでよろしいと。

 代償は旦那様の舌で。

 それでは…ありがとうございました!

 

 

 店を出て口腔を舐めた。

 彼女の舌。

 死んでしまった彼女は何も残さなかった。

 自殺…だった。

 

 手首を切って浴槽で眠る彼女には舌がなかった。

 幾度、絡めたか分からない、

 彼女といえば思い浮かべる長い舌。

 

 こういったものを買い取る店には覚えがあった。

 

 彼女は舌を売って何を得たのだろうか。

 愛しい女の舌で歯列を舐めながら、

 安い舌で手に入るものに想いを馳せた。

 

 案外忘却だったのかもしれない。

 記憶の抹消。

 

 彼女にはそれが似合いだ。

 

 勝手に答えをそう定めながら、

 決して忘れる事のない舌と舌を絡めた記憶と

 此処にある彼女の舌が歯茎を舐めた。