死神

 何と言うか、俺は自分が情けない。

 出会い系サイトで出会った少女に、
 街でこっ酷く、振られた。

 俺の探している少女ではなかった。
 あんなに生気に満ち溢れていれば、
 10年は俺の出番はない。

 もっと影を背負った少女だ。
 この世に飽き飽きして、
 死んでしまいたいと心から望んでいる…、
 そんな少女の死に様に出会い、
 魂を刈り取るのだ。

 俺は…死神。

 輝かんばかりの笑顔で通り過ぎる少女。
 間違いない。
 彼女だ。

 鞄の中に入っているものが視えた。
 遺書が何通か。
 俺はさりげなく少女について行った。

 少女は高い建物に上って行った。
 屋上から少女の姿が見えた。
 逆光で表情は見えない。
 躊躇することなく、少女は飛び降りた。

 血塗れにひしゃげた少女から、
 魂を回収する。

 援助交際で金を稼ぐ少女。
 それを全て母親の再婚相手に取られる少女。
 母親の再婚相手に犯される少女。
 母親に責められる少女。
 優しかった実の父親を思い出す少女。

 後は思い出だった。

 世界が自分に優しかったころの。
 世界が自分を愛していると思えた頃の。

 その魂は壊れそうな少女の悲劇を、
 静かに、静かに、語っていた。

 俺は神に愛されなかった過去を思い起こしていた。
 最初は神に綺麗な魂を見てもらいたかった。
 感謝なんて要らなかった。
 ただ、感動を神に与えたかった。

 美しい少女の魂を持って行った時、
 神は言った。

 お前は死神だ。

 侮蔑の言葉。
 それでも嬉しく、恨めしかった。

 俺はそれまでの名前を捨てた。
 死神として、神の元に魂を運び続けた。

 剥き出しの愛憎。

 神は、魂を救済し、崇められ、
 俺は、魂を回収し、忌み嫌われた。

 それで構わなかった。

 死神は人を殺しているわけではない。
 死んだ人から、魂を回収しているだけだ。

 コレクションにしようとは思わなかった。

 これはただ、神のためだけに。
 いくら忌み嫌われようと、蔑まれようと、
 これだけが神に贈れる俺の気持ちだった。



 あの時、死神と呼んだことに後悔はない。
 しかし、侮蔑と言う感情を向けたことは、
 間違いだったと思っている。

 死神は、放っておけば消えてしまう魂を
 綺麗なまま私に見せたかっただけだと言うのに。

 だから、贖罪の意味を込めて、
 私は魂の救済をする。

 永遠に分かりあえない関係でも、
 その関係を続けるために。
 何より、愛おしく思っている一柱の神に、
 死神に、

 せめて傍に来てもらえるように。



 全知全能の神の癖に、
 消えてしまう魂の場所は分からないのか。

 それとも人になど興味はないのか…。
 俺には分からない。

 今日も死神は死者を探す。
 死すべき者は多く、多くいる。

 俺は忙しく、
 神へと届くことのない愛を捧げる。
 魂を生ける者全てから、
 死すべきときに回収し、綺麗なままに、

 神の元へ…。