地獄で石を積む罪人

 地獄に生きてきて、こんなにも酷い挫折は初めてだ。

 悪人だからこっちに来たわけじゃあない。
 親より先に死んで、それも自殺をしたから、
 地獄行きが決定しただけだ。

 親は俺を愛していただろうか。
 へその緒で首を吊った俺には分からない。

 俺は毎日石を積む。
 賽の河原でやるはずのことだが、
 俺はそこいらで適当に石を積み上げる。

 獄卒が崩していくが構わない。
 これが、俺に課された罰だ。

 現実逃避はここまでにしよう。

 俺は賽の河原まで歩いて行って、
 石を積んでいた。

 いつもよりずっと高く、丁寧に。
 今日が俺の命日だと分かっていたから、必死で。

 とある獄卒がやってきた。
 嗚呼、また崩される。

 しかし、違った。

「お前、この子の世話をしろ」
「はい?」
 どういうことだ。
「この子もお前と同じく生まれる前に自殺をした」
 嗚呼、なるほどな。
 俺くらいの大きさになるまで育てろ、と。

「おっぎゃああああああ」

 ど、どうすればいいんだ。
 備品は支給された。
 ミルクを与えて、オムツを替えて、
 それでも赤子は泣きっ放しだ。

 試しに抱きしめてみたが、泣きやむ様子はない。
 挫折…。
 ここまでのものは初めてだ。

 それでも、子供は育って行った。
 地獄での成長スピードは速いようだ。

 1週間で子供は5歳児並みのサイズになった。

「なあ、兄ちゃん、何で自殺したんだ?」
 俺は誰にも言わなかった、理由を話した。
「世界が醜すぎると思ったんだよ」
「みにくい?」
「どういう記憶かは分からないけどな…」

「人同士、殺しあってたんだ」

「こんな醜い世界には生まれたくないと思った」
「そっか」
「お前は何で、死んだんだ」
「生まれる痛みが怖かったんだ」
「なるほど」

 話していると獄卒がやってきた。
 無駄話を責められるのかと思ったら、違った。

「子供、お前も罪を償え」
「まだ、小さいだろう」
「石くらい積める」

 さらに1週間で子供は俺くらいのサイズになった。
 17歳ほど。

 一緒に賽の河原まで行くと、
 なぜか大量の便器が流れ着いていた。

「愉快になってるなあ。これ積もう」
「兄ちゃん!?」

「勝手なことをしてはいけない」
 獄卒が笑いながら言う。
「しばらく待ってくれよ」
 俺が言うと獄卒は離れて行った。

 作業は単調。
 高く高く、便器を積み上げるだけ。
 俺は愉快で、ずっと笑っていた。
 10mくらいに積み上げると、獄卒が戻ってきた。

「これは愉快。しかし、崩せない」
「だろう?飾っておいたら…」
「お前は転生の輪に入る」
「は?」
「兄ちゃんが?」

 ずっと見ていた子供が、驚く。

「お前、何年此処にいるつもりだ」
 獄卒は笑うと、
「世界は変わった。行って来い」

 たった千年ぽっちで世界は変わらない。
 そう、思ったが、どう変わったかが知りたかった。

 身体が燐光に包まれる。

 輪廻の輪の中で、俺を選んだ男女がいた。
 女は俺を胎に宿し、幸せそうに笑っていた。

 生まれるときは、すぐだ。
 世界を見に行こう。

 俺は産声を上げた。