冬の桜

 咲いている。

 美しい桜が雪の中で、

 静かに咲いている。

 

 彼の悲しみを抱きながら。

 

 冬に散ったひとつの命。

 優しい彼は、ただ笑っていた。

 

 笑顔の彼女の思い出を大切に、

 穴を掘っていた。

 

 彼女は勝気で、

 笑っている彼が好きだと

 最後まで言っていた。

 

 病の娘を幸せにしてくれて、

 ありがとう。

 

 彼女の父の言葉が痛かった。

 

 けれど、

 もう、大丈夫。

 

 掘り起こした地面に、

 桜の木の苗をそっとおろした。

 

 そして、

 彼は埋めていった。

 

 足首が、ひざが埋まって、

 彼は少しずつ、埋もれていった。

 

 彼女はこの花が大好きなのに、

 春を待たず、死んだのだ。

 

 此処に咲こう。

 

 彼女の墓を見下ろす位置。

 彼女の墓から見える位置。

 

 そこに咲く一本の桜は、

 彼の哀しみと優しさで咲いている。

 

 毎年、冬に咲く桜。

 狂気であろうと、美しい。