優しい約束

 私は文字を具現化できる。

 その力は内緒だ。

 約束した。…誰かと。

 

 鈴と言うのが私の名前だ。

 年は12歳。

 白馬の王子様はもう、夢見ない。

 

 それでも、空想する。

 誰かに、大好きって言われる私。

 きっと私は満面の笑みを浮かべている。

 

 空想…空想だ。

 

 お父さんもお母さんも、

 毎日忙しくて、私に構ってはくれない。

 私も家業のパン屋を手伝う。

 できることは少ないけれど。

 

 移りゆく季節。

 私は文字を描く。

 鮮やかな蝶を書き、優しい色の花を書く。

 植木鉢を慌てて書き、

 その花を、小さな私の部屋に飾った。

 

 からんからん。

 

 お客さんだ。

 元気に、いらっしゃいませ!と声を上げる。

 

 そのお客さんは、

 君の作ったパンはある?と訊いた。

 私は少し歪なあんぱんを指差し、

 これでも上手にできたんですよ、と笑った。

 

 やっぱり君の笑顔は素敵だね、鈴。

 

 え…?

 どうして私の名前を知っているの?

 

 君があの時、

 文字で書いた料理は美味しかったけれど…、

 きっと、こっちの方が美味しい。

 

 嗚呼…、この人は…。

 

 大好きだよ、鈴。私の小さな従妹…。

 

 従兄、だったんだ。

 でもお母さんはひとりっこだし…。

 お父さんが喧嘩別れしたお兄さんの子供かな?

 でも、そんなことはどうだっていいんだ。

 

 大好き。

 とても、とても、嬉しい言葉。

 

 私は黎。また来ていいかな?

 

 いつでも来て!

 

 お会計を済ませると、黎さんはあんぱんを食べた。

 お店で食べたらいけないんじゃないかなあ、

 味はどうかなあ、と心配していると、

 黎さんは笑顔で、

 

 美味しい!と言った。

 私は笑顔になっていた。

 

 

 そして4年後、

 私と黎さんは結婚した。

 

 お父さんと伯父さんがしばらく睨み合い…、

 

 娘をよろしく

 息子をよろしく

 

 同時に言った。

 会場は温かい笑いに包まれた。

 

 私は文字を書いて作り出したブーケを放った。

 ぽん。

 両手にブーケを抱えた女の子が、はしゃいで、笑った。

 

 笑顔の溢れる場所で、

 黎さんも私もぴかぴかの笑顔だった…。