水底

 私は泳いでいた。

 

 紺碧の海を尾ひれで緩やかに進み、

 両腕には銛を持っていた。

 

 サメはいつものところにいた。

 

『さあ、お嬢さん、勝負です』

 

 一度も勝った事はない。

 水を掻き進むサメに私の繰り出す銛は届かない。

 

 今日も負けた。

 サメと戯れながら、

「どうしたら、貴方のように泳げるの?」

 尋ねる私に、

『お嬢さんもずいぶん、泳ぐのが上手になった』

 いつの私から、比べているのだろう。

 

 サメは不意に言った。

『明日で終わりにしましょう』

「どうして…?」

『真剣勝負です。一度くらい、私に勝ちなさい』

 

 

 そして今日、私はいつものように本気で、

 いつもよりも強い思いで、

 サメに挑んだ。

 

 流れるように繰り出される銛が、

 サメの身体に刺さった。

 

『上手だ、お嬢さん』

 

 サメはいとも簡単に銛を外すと言った。

 

『私と結婚してくれませんか?お嬢さん』

 

 私は顔が真っ赤になるのを感じた。

 それでも、サメが好きだったから…。

 

「この海で最も強い子を生んでみせる」

 

 サメが面白いくらいにうろたえた。

 頬にキスをすると、一緒に泳いだ。

 

 子供たちを守りながら泳ぐ日も近いだろう。