殲滅のシャドウ

「我々は決して正義ではない。殺し屋と言う名の悪だ」

 

 

 ゼロの口癖を思い出す。

 それには全く同感だった。

 足元に転がる死体が、ターゲットだった男だ。

 

 何故、隠れて人の臓器など売るのだろう。

 この男には、地位も名誉もあったのに。

 

 まあ、俺も悪人。

 殺し屋を4名抱える、情報集団シャドウのスリー。

 悪人の事は言えないな。

 

 追っ手をかわし、さっさと現場を離れる。

 

 

「悪が悪を殺す…か。愚かだな」

 ゼロ。最強の殺し屋。

「………」

 ワン。寡黙の殺し屋。

「どーせ、追っ手から、逃げ回ったんだろう?」

 トゥー。狂騒の殺し屋。

 

 組織の連中に報告を終えて、寝ようとしたら、

 ご丁寧に、お出迎えを受けた。

 

 俺は連中の本名も知らないし、

 俺に至っては本名などないが、

 シャドウの最も暗い部分は、わりと仲が良かった。

 

 …あれで、全員、歓迎してくれているのだ。

 俺の、無事を。

 

 スリー。音無の殺し屋を。

 

「ワン~、頭撫でて~」

「………」

 よしよしと撫でられる。ワンは好きだ。

 戦場でひとり戦っていた俺を拾ってくれた。

 

 ボスから、指令が来たようだ。

 下っ端がカードをトゥーに手渡す。

 

「え?疲れて帰ってきた、俺の安眠は?」

 カードを読んだ、トゥーが呟く。

「ざーんねん」

 こちらを見て、にやりと笑う。

 

 あ、駄目だ。

 

 一晩中、響き渡る爆音の嵐。

 まさに、狂騒。

 俺は、当然の如く、眠れなかった…。

 

「たーだいま。ターゲットは全員、殺したよ」

「よく戻った。例え、悪であろうとも」

 ゼロは余裕そうだ。

「………」

 ワン、クマがくっきり浮いている。

「おかえり」

 俺もたぶん、クマが浮いている。

 

「えーっと、みんなで昼寝する?」

 トゥーが提案する。

 全員、乗った。

 ゼロも眠かったらしい。

 

 平和な日々だった。

 これでもとても…平和だったんだ。

 

「スリー、なん、で…」

 トゥーを撃ち殺した。サイレンサーを使った。

 誰も、気づいていない。

 

「ゼロ、話があるんだ」

 振り返ったゼロにナイフを投げ、

 腕で身体をかばったゼロを撃つ。

「悪は悪か…」

 倒れたところを、慎重に近づき、頭を撃った。

 音もなく、ゼロは死んだ。

 

「ワン。俺を殺すか?」

 俺はワンの望みに従ったまで。

 ここから先がないとしても…

 最初からなかったと思える。

 

 ワンは俺の脚を引っ掛けて、倒すと、

 銃を、撃った。

 

 シャドウは壊滅した。

「…恋人の復讐。ただ、それだけだ」

「そうか」

 右腕に包帯を巻いた俺は、尋ねる。

「どうして俺を殺さなかった」

「…恋人に似ていた。お前はあの女に…瓜二つだ」

「そうか…俺は、トゥーもゼロも殺したくなかったよ」

「……悪かったな。ボスを追うには、必要だった。

 あのふたりが死んだことに気づかれずに、

 ボスの居場所を探りたかった」

「殺せたか?」

「…ああ。お前以外、シャドウは殲滅した」

「ワン…」

「…ライだ」

「ライ、これからどうする? 」

「…レイラ。お前の名前にして良いか?」

「!?」

「…一緒に生きたい」

「我々は決して正義ではない。殺し屋と言う名の悪だ…

 ゼロの口癖だ。

 だから、殺せないように利き腕を撃ったのか?

 それでも俺も、ライも悪だ」

 それなら…、俺はレイラとして、この男を愛そう。

「一緒に居てやるよ」

「………ありがとう」

 

 それでも、俺たちは殺し屋を続けた。

 生きるために出来る事はそれだけだった。

 撃たれた右腕は、すぐに回復した。

 リハビリをすれば、使い物になるようになった。

 

「我々は決して正義ではない。殺し屋と言う名の悪だ」

 悪人を殺す悪人。

 ゼロの口癖は、俺の口癖になっていた。

 

「ライ…お前より長生きしてやるよ。

 置いて逝ったりしない」

「………」

 

 俺たちは短い幸せを抱いた。

 

 ライが狙撃され、俺も撃たれ…。

 止めを刺しに来た男に、少し、待ってくれと頼んだ。

 ライの呼吸が止まるのを確かめると、

「いいぜ」

 弾丸は、俺の心臓を撃ちぬいた。