森の孤独な娘

 森に入ったら殺すの…。

 

 

 少女はひとり、孤独でした。

 森の家で毎日毎日、寂しく暮らしていました。

 

 あるとき旅人が訪ねてきました。

 優しい黒髪の隻眼の旅人。

 

 少女は旅人をもてなして、

 旅人が油断した隙にナイフで刺しました。

 

 …森に入った侵入者は殺すんだよ。

 

 倒れた旅人を見て、

 泣きながら苺を摘みに行きました。

 

 

 旅人は生きていました。

 どうにか、森を抜けて、親友と恋人のもとへ行きました。

 そこがもともとの目的地でした。

 

「森の魔女が女の子をさらったって、本当だったのかい」

「森を守って 、

今も旅人を殺しているのだろうか。罪深く哀れな娘だ。」

「魔女は死んだって言うのにね」

 苦しい息の下、

 手当てをされて横たえられた旅人が言います。

「きっと、これが初めてだ。手際が悪過ぎる…。

俺をもてなすあの娘は本当に楽しそうだった…。

…俺を刺したとき、泣いていた」

「可哀想に」

「ここに連れてきたら…どうだろう?」

「それはいい話だと思う」

「決定だね」

 

 3人は作戦を練りました。

 

 

 旅人は元の場所に倒れていました。

 少女は涙に濡れた目で、

「ごめんなさい。…森に入ったら殺すの。約束、なの」

 

 また、来客がありました。

 近くの街の男性と女性でした。

 

「何もないところで、ごめんなさい」

「いいんだよ。森に入って、無事でいるだけいいんだ」

「………」

「どうしたんですか?」

「…作戦を変更させて欲しい。

娘、私とどうか婚約してくれ。私の恋人になってくれ」

「そんなことできません。私は人殺し…」

「違うんだ」

 倒れた演技をしていた旅人が現れ、言います。

「君に街に来てほしかった。だから、さらいに来たんだ」

 少女は呆然として…、

「死んで…なかった…」

 ぽろぽろと涙を零しました。

 

「私はおとぎ話のグレーテルのようだったのです」

 魔女に囚われつづけ、

 魔女が死んでも、

 魔女を継ぐしか道の無かった少女。

 

 …けれど。

 

 

 街で少女は旅人の親友の家で暮らし始めました。

 幸せな少女はやがて母となり、老いて、死にます。

 

 …もう、森には誰もいない。

 …忌まれた森は、そこにはない。