神のお山の一輪の花

 平和な街。僕は此処が好きだった。

 穏やかな気候。穏やかな人々。

 神のお山と呼ばれる綺麗な山。

 

 日常…。

 そんなものがどれほど、壊れやすいかも知らずに。

 

 ぎりぎりで滑り込んだ教室。

 皆から失笑が漏れる。

 幼馴染みの安奈はにこりと笑った。

 

 僕は恋をしていた…。

 安奈は僕をどう思っているだろう?

 胸がどきどきした。

 

 それから授業の後、クラスの連中と騒ぐ。

 気のいい達也。おとなしい有紀。ちょっと怖い鏡夜。

 

 急に達也が声を潜める。

「颯哉、告白しろよー」

「ええっ」

「安奈ちゃん、人気あるんだよ?」

 有紀が言う。

「まあ頑張れよ、そ・う・や」

 鏡夜が脅かすように言う。

 

 そして、惨劇が…始まった。

 

 安奈を手紙で体育館裏に呼び出す。

 僕は暴れる心臓をなだめながら、目的地へ…。

「颯哉君のこと?」

 安奈が誰かと話している。誰だろう。

 それより内容が。

「実はね、好き…かな」

「そっか」

 達也の声。そうか、僕を応援に…、

「死ねよおっ!」

 

 ごん、がん、ばきっ。

 

 僕が飛び出すと…安奈は変わり果てた姿になっていた。

 達也が持っていたのは、金属バット。

 

「あ…んな、安奈!しっかりしろよ!」

 駆け寄ると温かい身体を抱き寄せた。

 まだ、温かい身体を。

 呼吸は止まっていた。

 

「…達也あっ!どうして、どうしてだよ!」

「好きだったからに決まってんだろ」

 え…?

「俺は安奈が好きだったんだよ!

なのに…そうだ、お前も死んどけよ。

あの世で会えるといいな。はは」

 衝撃。そして、死。

 

 

 翌日、全校集会が開かれた。

 安奈と颯哉を殺した犯人は、分かっていない、と。

 俺は奇妙な快感を覚えていた。

 

 しかし。

 

 家に帰ると母親が死んでいた。

 包丁が刺さった腹が、グロテスクだった。

 何故?何故だ。

「母さん」

 ふらふらと近寄っていくと…。

「お前にも家族愛はあるんだな、達也」

 鏡夜がいた。

「俺はお前に殺されたりしないぜ?」

 ナイフを片手に。

 ぞっ…とした。

 俺は武器を持っていない。

「人殺しは不幸になるんだ。だから、…俺は死ぬ」

 鏡夜は笑った。

「俺みたいなのに

友達ができたのは、颯哉のおかげだった…」

 そして、首を刺した。

 

「あ、あああ」

 

 そこからは復讐劇の始まりだった。

 

 帰宅した達也の父親が、鏡夜の家族を殺しに走り、

 達也は真相を知った有紀に殺された。

 有紀は…何者かに殺された。

 皆は連続殺人鬼と化した達也の父親が犯人かと思ったが、

 その時間には、彼は颯哉の父親を殺していた。

 

 人が次々に死んでいく。

 誰が誰を殺しているのか、もう、分からない。

 

 街からは人が逃げて行った。

 そして殺戮は続いた。

 最後の住人が自殺したとき、街もまた、死んだ。

 

 

 彼女は死んだ街を見下ろしていた。

 ハイキングで登った山の少し開けた、

 見晴らしのいい場所で、

 殺戮の始まりの少女は笑っていた。

 

 足元には、橙色の一輪の花。

 

 神のお山で、少女は掻き消えた。