鋭い月の爪の先に

 カッターナイフは持っていない。

 買いに行くのは面倒だ。

 

 けれど、私にはこれがある。

 刃の煌めく綺麗な剃刀のお月様。

 

「切りたいなあ」

 

 気がつくと、右手に剃刀があった。

 いつの間に持ってきたのだろうか。

 今宵の月は綺麗なのだろうか。

 冷たい夜には綺麗な綺麗なお月様が輝いているだろう。

 

 さくっ。

 

 さくっ。

 

 さくっ。

 

 傷を刻んでいく。

 その行動の意味なんて、

 そのとき、考えたりはしない。

 無心…無我。

 

 ただ、新しい傷を。

 ただ、流れて固まる血を。

 

 固まった血は醜いと思う。

 傷は刻んでから1日経ったものがいちばん綺麗だ。

 朱い月のような…。

 10センチほどの傷痕。

 長く、浅い…。

 

 しばらくすると、傷が救いになる。

 今も、私の太ももには100を超えそうな、

 傷跡が残っている。

 

 消えたらどうするか?

 鋭い月の爪の先に、引っ掻いてもらうのだ。

 何度も、何度も…。

 

「また、よろしくね」

 剃刀を仕舞う。

 

 私の身体に傷は絶えぬ。

 私の心に傷はあるか?

 

 見えないものは分からない。