人間の刻印

 奴隷の刻印を押されるのは、痛くなかった。
 刻印を押し付けられたのは…心。
 その時は、確かに痛みは感じなかった。
 感じられなかった。

 奴隷の身から抜け出した今も、
 なかなか、心は動かない。

 焼ける痛みに凍り付いて耐えているらしい。

 私は若いから、
 子供から抜け出せていないくらいだから、
 きっと、回復する。

 心の…傷。

 母は私を理解しなかった。
 傷ついた私に八つ当たりをした。
 暗い話しかしない祖母の電話なんて、
 聞きたくないのに、と。

 離れて暮らし始めて、
 なんて楽なんだろうと思った。

 日常の家事は問題ない。
 ぐしゃぐしゃだった実家よりよほど綺麗な、
 私の家。

 けれど、心に押された奴隷の刻印が、
 急に痛み出した。

 いや、急ではなかった。

 ずっと、痛んでいた。
 痛みも感じないほどに心が凍りついていただけだ。

 リラックスできる空間で心が少しずつ、
 溶けだしてきただけなのだ。

 心的外傷後ストレス障害。
 症状は5か月前から出ていた。
 気づけないほどに傷が深かっただけで…。

 私はずっと、苦しんでいたんだ。
 苦しみにすら気づかず、
 私は自らを傷つけた。

 所謂、レッグカット。
 太ももは人には見せられない有様だ。

 主治医とカウンセラー、看護師には見せたが。

 見て、驚かれるのも嫌だった。
 だから、

 そういうものを見慣れている人にしか見せない。

 主治医は、

 切るという行為は癖になりやすい、と言った。
 確かに癖になった。

 1週間、我慢している。

 ふと、思った。
 これは刻印だ、と。

 身体に刻んだ人間の刻印。

 自傷行為はやめられるだろうか。
 フラッシュバックの度に、
 溶けた心の傷に、もがき苦しむ。

 死にたいとは思わない。
 生きたいとも思えないけれど、
 このまま、死ぬことだけは、嫌だ。

 1日1回、いいことがあれば幸せだろうと、記録する。

 今日は眠れた。

 これくらいのことが、
 幸せな今のまま、死ぬなんてまっぴらだ。

 人間の刻印が消えても、私は人間だ。
 それでも消えてしまったらと不安になる。

 刻印など、普通の人間は刻まないというのに。