ボクは女ではありません 男同士の夢

 ボクは父と夢を語ったことがあった。
 お嫁さんなんて、

 吐き気のするような夢を語った当時のボクに、
 父はじゃあ、お婿さんにしてくれよ、と言った。

 気持ち悪いことを話したものだ。
 近親相姦なんて、あの父らしいとも思うが。

 近所の女を襲って強姦未遂で捕まった馬鹿な父。
 でも、ボクがもっと嫌いなのは、
 相手の女が誘ったのよ、なんて、平気で言う母だ。

 汚らわしい。

 あのふたりから生まれた自分が気持ち悪い。

 今日は精神病院の通院日だ。
 何を話すか、ぼんやり考えながら、母の車に揺られる。

 主治医は40代の女だ。
 いつも笑っているような顔の、幸せそうな女。

 眠れない。生きているのが馬鹿馬鹿しくて、死にたくなる。

 薬のために誇張した表現。
 眠れないのは本当だが。

 主治医はボクの目元を見て、
 クマが出てるねえ…何時間寝た?
 そんな質問をした。

 寝てないよ。眠くなったら朝だったから、諦めた。

 これは本当だ。
 嘘も誇張もない。

 ボクの眠剤、効いてるの?

 主治医は困った顔をして、薬を変えようか、と言った。
 またか、と思った。

 帰りの車で、少し、眠った。
 酷く疲れた。

 また、薬が変わったの?
 うん。
 今度は効くといいね。
 うん。

 そんな、くだらない会話が、子守唄代わりだった。

 ボクは夢を見ない。
 深く眠るから、とか、そんな幸せな生理現象ではない。

 将来、何かが起こるとか、
 いつか、幸せになれるとか、そんな夢を見ない。

 夢を見る方法があるなら、
 誰か教えてほしい。

 そんな曖昧な幸せ、欲しくないけれど、経験はしてみたい。
 要は好奇心だ。

 ボクは死ぬまで死ねないのだろう。
 当たり前のことだ。

 終わりたいよ。
 もう、生きたくないよ。

 そんなことを考えながら、
 家に着いて、自分の部屋にこもった。

 思えば病名などを聞いていない。
 興味がなかったのが大きいな。

 病気なら治るかとか、馬鹿らしいことを考えてみた。

 過去に語った夢を思い出して、急に吐き気がした。
 トイレに駆け込んで、吐く。

 あんな父親のお嫁さん?
 反吐が出る。

 ボクはあの頃は女だったのか。

 でも、今のボクは違う。
 たとえ、男ではないとしても、女ではあり得ない。

 そう、考えれば、

 同性愛の近親相姦ですら、あったのかもしれない。

 さあ、世界に主張しよう。


 ボクは女ではありません。