ボクは女ではありません 清い姫君

 お前は自分で思っているより、綺麗なんだよ。
 いつもの乾いた声で、先生が意味不明なことを言う。

 心がな。
 お前は清い姫君だよ。

 ボクは意味が分からなくて、ただ、笑った。

 先生、意味不明だよ?
 笑われても、気にする様子のない先生は、
 さらりと言った。

 親御さんに、志望校ばらすからな。

 …仕方ないや。
 気が重いけれど、先生が話すならいいや。
 ボクは、そう伝えた。

 同席しろ。

 先生それは爆弾発言だよ…。
 滅茶苦茶、気が重い。

 卵焼き。
 先生はボクを買収しようとする。

 あっさり負けたボクだった。

 家で、母に先生が来る、とだけ言って、部屋に引きこもった。
 どういうこと?
 部屋の前で、母が尋ねる。
 ずっと、訊かれ続けるのは嫌なので言う。

 ボクの進路だよ。

 母が息を飲むのが分かった。

 先生は、自分を飾らない。
 保護者に会うときも、特別、愛想よくはしない。

 娘さんの行きたい学校は難しいところですが、
 学力的には、十分に可能です。
 受験生にはプレッシャーがつきものなので、
 追い詰めないようにしてあげてください。

 ボクはぼうっとしていた。
 母の嬉しそうにする顔を見たくなかった。

 先生は帰りに、そこそこ頑張れとボクに声をかけた。
 りょーかい。

 その答えで満足したのか、
 ふっと笑って帰って行った。

 翌日、学校に行くと、ポケットにピンキーリングが入っていた。
 ああ、母が間違って洗濯したな。
 何もボクの学ランに入り込まなくてもいいのにね。

 母の小指に収まっていれば上品な指輪も、
 ボクが持てばイミテーションのよう。

 捨てようか、と一瞬考え、やめておく。

 ばれたら、また、煩いことになる。

 3時間目が終わり、ボクは教室を移動する。
 委員長が友人と言うアイテムと共に歩いていく。

 数学の時間は適当に時間をやり過ごした。

 そして、ボクは先生とお弁当を食べる。
 卵焼きにうっとりしていると、先生は言う。

 お前は一生、お前のままだ。
 お前は男にはなれないし、女で居たくないならそれでいい。
 別に学ランだって、似合っているし構わない。
 しかし、自分を追い詰めるな。

 ボクは訊いた。
 どうしてボクに優しくするの?

 先生は…、
 なんとなくだ。

 至極あっさりとそう答えた。

 ボクは…ボクは、言った。
 先生に、世界に主張した。


 ボクは女ではありません。
 けれどボクは女です。