ボクは女ではありません 戦争と結末

 ボクは鬼コーチと昼食を食べる。

 ろくに咀嚼もせず、口に入れては飲みこむ。
 鬼コーチは弁当を美味しそうに、

 よく咀嚼して、食べている。

 広い校内の木陰のベンチ。

 進学校だが、別に勉強は難しくない。
 授業をサボる場所に困らないことが、

 ここの学校の一番のお気に入りだ。

 進学はするのか。
 そんなことを尋ねられる。

 面倒だね。でも、就職も面倒だから、大学は行くよ。

 誰にもそんなことは言っていない。
 三者面談でだんまりを決め込んだら、鬼コーチは、

 考えがあるのでしょう。
 と言った。

 母は、
 とてもそんな風には…と否定した。

 記憶も同時に飲み込んで、

 鬼コーチの弁当は誰が作ってるの?
 と、訊いた。

 俺だ。
 その答えに、ありゃ意外。

 素早く卵焼きを入れ替える。ボクのと、鬼コーチの。
 鬼コーチは何も言わずに見ていた。

 その卵焼きを観察する。
 黄色くてつやつやして、甘い香りがする。

 ひとくち食べて…

 やばいよ、鬼コーチ。もっと頂戴。
 ボクの渡した卵焼きを食べ終えると鬼コーチは、

 先生、と呼ぶなら。
 と言った。

 先生先生先生。

 連呼しなくていい。

 先生のお弁当とボクのお弁当のトレードが行われ、
 至福の時を味わうボクに、先生はひとり語りを始めた。

 戦争は人がいる限り必ずと言えるほど、始まる。
 始めることはごくごく簡単だ。
 しかし、続けることで人が死ぬ。
 戦争はビジネスだという見方もある。
 ならば、金と人の命では、金の方が重いのか。
 戦争を終わらせることは非常に難しい。
 結末は悲劇だ。
 焼け野原が広がるところもあれば、

 金に溢れるところもある。
 悲劇を語る者は多くいる。
 作家が、著名な作家が語れば、話題にもなろう。
 それで救われる人間がどこにも居はしないとしても。

 先生は語り終えると、その乾いた声で、
 どう、思う。
 と、訊いた。

 人が死ぬなんて、当たり前じゃない。
 …人間は滅ぶまで戦争をすることはできないよ。

 自分は死にたくないんだからさ。

 ボクが言うと先生は、

 そのうち志望校を教えてくれ、と言った。

 ボクは、別にいいけど、と言った。
 志望校があることまで知れているとは、油断ならない人だ。

 先生は、幸せはどこにでもある。

 お前だって、卵焼きひとつで幸せになれる。
 と言って、

 死ぬなよ。
 そう、言い残して去って行った。

 さあ、世界に主張しよう。


 ボクは女ではありません。