けれどボクは女です 世界の在り方

 落ちるだろうかなんて、考えなかった。

 ボクはいつも通りに勉強をした。

 

 学校の勉強の割り合いを減らして、

 志望校の過去問は一度見ただけで勉強した。

 

 母は先生に釘を刺されたので、

 ボクにもっと勉強するようにとも言えず、

 大体、ボクは勉強する姿を母に見せなかった。

 

 学校では委員長が訊いてきた。

 推薦?面接もあるよ。

 

 ボクは答えた。

 推薦で行くよ。より確実なほうがいいから。

 

 余裕ね。その態度でも大丈夫?

 

 心配してくれてるわけじゃないよね。

 

 委員長は艶やかに笑った。

 プレッシャーをかけて、ライバルを蹴落とすんだ。

 

 さすがだね。

 ボクは言う。皮肉ではなかった。

 

 授業はいつも、うわの空。

 その態度で、あの大学に入れるとでも思うのか。

 なんて、笑っちゃうよ。

 

 役に立つ授業なら、真面目に受けるけどね。

 その、言葉に、教師は赤くなって、黙った。

 

 先生とのお弁当トレードは、日常と化していた。

 面接では何を話したいんだ。

 内緒。

 そうか。

 

 そして、あっという間に入試当日。

 

 ボクはいつも通りに学ランを着た。

 母が面接での心象が悪いわよ、なんて言う。

 気にしない。

 ボクはボクの道を行くさ。

 

 志望校に着くと、委員長と先生がいた。

 

 先生は、

 いつもの調子でやれ。

 と、ボクたちに言った。

 

 いよいよ入試だ。

 筆記テストに向かう途中、委員長は小声で、

 

 落ちたらいいね。

 と言った。

 

 ボクは、

 委員長も…受かるといいね。

 と言った。

 

 驚いた顔の委員長に手を振って、

 非常に目立つボクは、筆記テストを難なくこなした。

 

 昼食を挟んで、面接だ。

 

 ボクは髪をポニーテールにした。

 流していたら不味いだろうからね。

 

 先生は、

 いい子だ。

 と、ボクの頭を軽く撫でた。

 当然、行われるお弁当トレード。

 

 委員長は、

 好きにすればいいわ。

 と言った。

 

 少し、長くも感じる、待ち時間。

 番号を呼ばれて、

 ボクは立ち上がった。

 

 扉をノックすると、

 どうぞ、の声。

 

 失礼します。

 声を上げて室内に入る。

 驚いたような人のよさそうな男と無表情な男。

 

 よろしくお願いします。

 そう言い、指定された位置に荷物を置くと、

 椅子の横で一礼した。

 

 椅子に座ると、

 人のよさそうな男に質問された。

 

 どうして、男子の制服を着ているのですか?

 

 ボクは自分が女だと分かっていますが、

 認めることができません。

 家庭の事情で自分の性別を嫌悪するようになりました。

 

 家庭の事情とは?

 

 父が強姦未遂で捕まった時に、

 母が相手が誘ったと言ったのです。

 その時に、母は父しか愛していない、

 ボクも愛していないんだと絶望して、

 反発心から、母とは違う自分を求めています。

 

 そうですか。

 この学校を志望した動機は?

 

 そこから普通の面接が始まった。

 ボクは思うとおりのことを述べて行く。

 無表情な男が質問した。

 

 何故、医学部を志望したのですか?

 

 ボクのような人間を癒す精神科医になりたいと、

 これまでの医師の対応から、感じたからです。

 

 これまでの医師の対応とは?

 

 ただ薬を処方して、その感想に答えることです。

 ボクの想いを汲んではくれませんでした。

 

 面接が続き、終わった。

 

 立ち上がると一礼し、

 ありがとうございました、と礼を言う。

 真剣に聞いてくれて嬉しかった。

 

 荷物を手に、

 失礼します、と部屋から出た。

 

 

 母は、とてもピリピリしていた。

 今日、入試に合格していれば、合格通知が来る。

 不合格なら、何もない。

 

 ポストに何かが投函される音。

 

 母が飛び出していく。

 持ってきたのは…合格通知。

 

 弟がひとこと、

 よかった。

 と、言ったのが、嬉しかった。

 

 

 学校で先生に合格したと伝える。

 先生は人目も気にせずボクを抱き上げて、

 

 よくやった。

 

 高い高いをされているようでこそばゆかった。

 

 教室に行くと委員長が、

 落ちてない?

 と訊いた。

 

 受かったよ。

 そう言うと、

 

 学部は違うけどさ、お互い頑張ろう。

 と、委員長は笑った。

 

 

 世界は勝手に決めつける。

 性別、年齢、寿命、人生…そんな世界が嫌だった。

 

 けれど、意外に悪くない。

 

 ボクは世界に主張した。

 もう一度…。

 

 ボクは女ではありません。

 けれど、ボクは女です。

 

 ボクはボクとして、生きていきます。